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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)8908号 判決 1998年4月17日

原告

伊藤毅

ほか一名

被告

山下裕樹

主文

被告は、原告伊藤毅に対し、金五一八万七二八八円及び内金四七一万七二八八円に対する平成三年一一月一八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被告は、原告伊藤秀子に対し、金二六四万円及び内金二四〇万円に対する平成三年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告伊藤毅に対し、金三六三六万九二六〇円及び内金三三〇六万九二六〇円に対する平成三年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告伊藤秀子に対し、金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する平成三年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通乗用自動車と衝突し負傷した足踏み式自転車の運転手及びその妻が普通乗用自動車の運転手に対し、自動車損害賠償保障法三条により、損害の賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠を摘示する。)

1  本件事故の発生

(一) 発生日時 平成三年一一月一八日午後七時二五分ごろ

(二) 発生場所 大阪府吹田市昭和町三五番二二号先道路(以下「本件現場」という。)

(三) 加害車両 被告が運転し、所有する普通乗用自動車(登録番号大阪七五ぬ七六八四号、以下「被告車」という。)

(四) 被害車両 原告伊藤毅(以下「原告毅」という。)が乗車していた足踏み式自転車(以下「原告自転車」という。)

(五) 事故態様 原告毅が、原告自転車で本件現場の道路を走行中、被告車と衝突した。

2  責任

被告は、本件事故当時、被告車を所有していたものであり、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告が本件事故により被った損害を賠償すべき義務がある(弁論の全趣旨)。

3  原告毅は、本件事故により、脳挫傷、挫傷内血腫、右鎖骨骨折等の傷害を受けた(乙第一の七、第三)。

4  治療経過

(一) 平成三年一一月一八日から平成四年一月八日まで千里救命救急センターに入院

(二) 平成四年一月八日から平成六年二月一九日まで茨木病院に入院

5  原告毅は、平成六年二月一九日、頭部外傷後器質性精神障害を残して症状固定した(甲第五)。

6  損害てん補

原告毅は、三六〇〇万一五七二円の支払いを受けた。

二  争点

1  過失相殺

(被告の主張)

本件事故は、被告が被告車を運転して、信号機による交通整理の行われている交差点を対面青信号に従い西から東に進行中、原告毅が、右交差点から三〇メートル以内の地点において、突然横断を開始したため発生したものであって、原告毅には、右後方を確認することなく横断を開始した過失があるから、原告毅の損害につき七割の過失相殺がされるべきである。

(原告らの主張)

原告毅は、進路前方に駐車車両があったので、これを避けるため道路の中央に寄ったのであって、横断しようとしたのではない。

原告自転車が、駐車車両を避けて道路中央寄りに出てくることは、被告にとって予見できたはずである。

2  原告毅の損害

(一) 治療費(七四六万一五七二円の限度では当事者間に争いがない。) 一〇五〇万二五九六円

(二) 入院雑費 一〇七万一二〇〇円

平成三年一一月一八日から平成六年二月一九日までの八二四日間に、入院一日当たり、一三〇〇円の雑費を必要とした。

(三) 付添看護費 四五三万二〇〇〇円

(算式)5,500×824

(四) 将来の治療費 六七六万九九二〇円

原告毅は平成六年二月一九日の症状固定時五九歳であり平均余命は八〇歳までの二一年であるから、右期間の中間利息を控除して、治療費の現価を算定すると右のとおりである。

(算式)40,000×12×14.104

(五) 将来の入院雑費 六六九万二三四八円

(算式)1,300×365×14.104

(六) 将来の付添看護費 二八三一万三七八〇円

(算式)5,500×365×14.104

(七) 慰謝料 三三九六万三四四〇円

傷害慰謝料 三九六万三四四〇円

後遺障害慰謝料 三〇〇〇万〇〇〇〇円

(八) 弁護士費用 三八〇万〇〇〇〇円

(被告の反論)

原告毅は市民税非課税世帯であるから、原告毅が負担すべき将来の治療費は月額三万五四〇〇円に止まる。

3  原告伊藤秀子(以下「原告秀子」という。)の損害

(一) 慰謝料 五〇〇万〇〇〇〇円

(二) 弁護士費用 五〇万〇〇〇〇円

4  よって、原告毅は、右損害合計額から既払い金を控除した残額の内金三六三六万九二六〇円及び内金三三〇六万九二六〇円に対する平成三年一一月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による金員を、原告秀子は、金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する平成三年一一月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による金員の支払いをそれぞれ求める。

第三争点に対する判断

一  過失割合

1  証拠(乙第一の一から六まで、被告)及び弁論の全趣旨によれば、

本件事故現場は、東西に伸び、歩車道の区別がある、幅員約一三・七メートル、片側二車線の道路(以下「本件道路」という。)上であって、市街地に位置していること、本件道路は、最高速度は時速四〇キロメートルに制限され、路面はアスファルト舖装され、平坦で、本件事故当時は乾燥していたこと、本件事故現場付近は、見通しは良いこと、

本件事故現場の二〇ないし三〇メートル西には本件道路とこれに交差する南北道路とによって形成された信号機による交通整理の行われている交差点(以下「西側交差点」という。)があること、

被告は、被告車を運転し、本件道路の東行車線を時速約八〇キロメートルの速度で走行し、別紙図面<1>(以下地点符合のみ示す。)で約六九メートル前方を同方向に進行している<ア>の原告自転車を発見したが、西側交差点の対面信号機の信号が青色表示であったので、信号が変わらない内に通過しようと考え、そのままの速度で走行を続けたこと、<1>から約三〇・八メートル進んだ<2>で約四一メートル前方の<イ>の原告自転車が右方に進路を変更したのを発見し、危険を感じ、右ハンドルを切り、急ブレーキをかけたが、<2>から約四三・二メートル進んだ<3>で原告自転車<ウ>と<×>で衝突し、<3>から約四・八メートル進んだ<4>で停車したこと、原告毅は<ウ>から約一四・二メートルのエに転倒したこと、本件衝突現場の北側付近には路上駐車車両が数台あったこと、現場の路面には、被告車の左の三〇・九メートル、右の三〇・六メートルの各スリップ痕が印象されていたこと、

本件事故後、被告車には、前部バンパー凹損、ボンネットに擦過痕等が、原告自転車には、後部どうよけ凹損、変速機凹損等がそれぞれ生じていたこと等の事実を認めることができる。

なお、被告は、原告毅が本件事故当時横断を開始した旨主張し、証拠(乙第一の六、被告)中にはこれに沿う部分があるけれども、証拠(乙第四の三)によれば、乙第一の六(原告毅の司法警察員に対する平成四年一月二二日付け供述調書)が作成された平成四年一月当時、原告毅は未だ意識障害も残っているものと思われるような痴呆状態にあり、見当識障害も見られたのであって、乙第一の六の記載部分はにわかに採用することができないし、また、本件衝突現場の北側付近には駐車車両があったことに鑑みれば、原告毅が後方から被告車が近づいているのに気づき、左側に回避することができないので右に回避しようとした可能性も否定できないのであって、被告の主張には首肯することができない。

2  1の事実によれば、原告自転車及び被告車は本件事故直前に同方向に走行していたものであって、被告は、約六九メートル前方を走行している原告自転車を発見し、かつ、四一メートル前方の原告自転車が右方に進路を変更したのを発見し、危険を感じたのであるから、原告自転車の動静に十分注意し、適宜減速すべき注意義務が存したのに、これを怠り、制限速度を時速換算で四〇キロメートル超過する速度で走行した過失があり、他方、原告毅も、車道上を道路中央に進路変更した過失があるといわざるを得ず、本件事故に関する原告毅及び被告の過失割合は、本件事故の態様、車両の速度、双方の車種等を総合考慮すれば、原告毅の二、被告の八と解するのが相当である。

二  原告毅の損害

1  治療費 一〇五〇万二五九六円

原告毅が本件事故による負傷につき治療費として少なくとも七四六万一五七二円を要したことは当事者間に争いがなく、証拠(乙第三四)及び弁論の全趣旨によれば、原告毅は治療費として二九〇万〇〇三六円を支出し、大阪府国民健康保険団体連合会が、原告毅に対し行った給付の合計額は七六〇万二五六〇円であったこと、右七六〇万二五六〇円の内四五六万一五三六円につき、被告は大阪府国民健康保険団体連合会から国民健康保険法六四条一項に基づき代位され、これを支払ったこと等の事実が認められ、右の事実によれば、原告毅の治療費は一〇五〇万二五九六円となる。

2  入院雑費 一〇七万一二〇〇円

原告毅が、本件事故により負傷し、平成三年一一月一八日から平成四年一月八日まで大阪府吹田市所在の大阪府立千里救命救急センター(以下「千里救命救急センター」という。)に、平成四年一月八日から平成六年二月一九日まで大阪府茨木市所在の医療法人清風会茨木病院(以下「茨木病院」という。)に入院したことは当事者間に争いがなく、右の八二五日間の入院期間中一日当たり一三〇〇円の雑費を必要としたものと解するのが相当であるから、原告毅の主張は理由がある。

3  付添看護費 一二三万六〇〇〇円

原告毅は、平成三年一一月一八日から平成六年二月一九日までの八二四日間に、一日当たり五五〇〇円の付添介護費を要した旨主張するところ、

(一) 前記争いのない事実等及び証拠(甲第四、第五、第八の一及び二、第一二の一、乙第二から第四の四まで、第五から第三二までの各一、第三三、原告毅法定代理人後見人松下勝代)並びに弁論の全趣旨によれば、

原告毅(昭和一〇年三月九日生まれ、事故当時満五六歳)が、本件事故により、脳挫傷、挫傷内血腫、右鎖骨骨折等の傷害を負い、

平成三年一一月一八日から、完全看護体制の千里救命救急センターに入院し、同センターの集中治療室に同月二五日まで入室し、同日以後、病棟に移り入院治療を受けたこと、同日時点で意識レベルは改善しつつあったこと、原告毅は同年一二月初旬ごろから発語が増加したが、明瞭とは言い難く、暴言を吐くこともあり、原告秀子は体調不良のため面会に赴くことができないことがあったこと、

同年一二月一九日、大阪府摂津市所在の摂津医誠会病院に転院したが、同病院で、原告毅がせん妄状態を呈したため、同病院及び千里救命救急センターの医師並に原告毅の家人らの合意で、同日、再度、千里救命救急センターに入院したこと、同日、千里救命救急センターの医師は、原告毅の転院先について、付添時間が全日にわたる病院か、原告毅の精神状態が落ち着いてからにするか検討を加えていること、同月二〇日時点で、原告毅の外傷後せん妄による不穏行為の対策として、危険防止、抑制、鎮静施行等が検討されたこと、原告毅は再入院後、看護婦や家人に対し、暴言を吐いたり、物を投げつけたり、看護婦に暴力を振るうなどの振る舞いが少なからず見られたが、平成四年一月初めごろ、医師は、原告毅の情動抑制力低下は少し改善してきた旨診断したこと、

同月八日、茨木病院に転院したが、せん妄状態、見当識障害、意識障害等が見られ、同年四月に開放病棟に移動したが、暴力行為や急性精神運動興奮による不穏性等が著明な時があり、無断離脱もあったため閉鎖病棟に移動したこと、

原告毅の面会には、原告秀子や近親者が訪れたが、その回数は、同年一二月までに一一〇日であったこと、

平成五年になると、原告秀子と外泊をすることが多くなり、同病院の他の患者への思いやりを見せることもあったが、易怒的になり、身近な者への粗暴な行為が見られたこと、原告毅の面会に、原告秀子らが訪れた回数は同年は一二二日であり、病院訪問時には原告毅を連れて散歩をしたりしたこと、

平成六年二月一九日、茨木病院の廣常秀人医師は、同日付けで自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を作成し、症状固定日「平成六年二月一九日」、傷病名「頭部外傷後器質性精神障害」、自覚症状「不詳(下記の如き著しい精神障害のため聴取不能)」精神神経の障害、他覚的症状および検査結果「知能テスト(鈴木・ビネ式)IQ三一、EEG(全般に徐波出現する異常脳波)、記銘力等の著しい低下伴う痴呆症状、易怒性・感情の平板化、情性欠如、意味不明・了解不能の言動等著明な人格変化と人格水準の低下、以上症状のため、脳挫傷受傷により日常生活能力が不能な状態にある」、障害内容の増悪・緩解の見通しなど「予後の見通しについては不明なれど、回復の見込みはほぼないと思われる」等と診断したこと、

原告毅の面会に、原告秀子らが訪れた回数は同年一月は六日、同年二月は一九日までに一日であったこと等の事実を認めることができる。

(二) 前記(一)の事実によれば、原告毅が本件事故により、脳挫傷等の傷害を負い、千里救命救急センター及び茨木病院に入院し、千里救命救急センターでは当初集中治療室で治療を受けていたこと、回復した後も、不穏な状態が続き、看護による観察によって危険発生の防止が必要であったと認められるけれども、他方、その実施は病院の看護婦によって行われていたものであり、また、原告秀子や原告毅の近親者は、病院を訪れてはいたが、原告毅の相手をして、散歩をするなどしていたに止まっていたこと、原告秀子らが病院を訪れた頻度等を勘案すると、原告毅の付添介護費としては、平成三年一一月一八日から平成六年二月一九日までの八二四日間につき、一日当たり一五〇〇円をもって相当と解され、原告毅の主張はその限度で理由がある。

4  将来の治療費 五九九万一三七九円

前記争いのない事実等、二の3の事実及び証拠(甲第四、第一〇、第一二、第一四、乙第四の一、第三七)並びに弁論の全趣旨によれば、

原告毅は、平成六年二月一九日、頭部外傷後器質性精神障害により、記銘力等の著しい低下を伴う痴呆症状、易怒性、感情の平板化、情性欠如、意味不明、了解不能の言動等著明な人格変化と人格水準の低下のため日常生活が不能な状態で症状固定したこと、医師は、予後の見通しについては不明であるが、回復の見込みはほぼないと思われる旨診断していること、

原告毅は、症状固定後も、標準型精神分析療法、抗てんかん剤、精神安定剤、パーキンソン病治療剤、催眠鎮静剤等の投与を受け、同年七月ごろにはバーキンソン症状は改善している旨、同年八月ごろからは右症状は見られない旨診断されたこと、

平成七年五月八日付けで、自動車保険料率算定会大阪第三調査事務所長は、原告毅につき自賠法施行令二条別表等級第一級三号との認定をしたこと、

平成八年一月ごろにも、原告毅に対し、抗てんかん剤、精神安定剤、パーキンソン病治療剤、催眠鎮静剤が投与されていること、

平成九年九月、茨木病院の岡達治医師は、原告毅につき、痴呆症状(記銘力低下、見当識障害)は今後も改善の見込みはなく、これに対する向精神薬、抗てんかん剤の投与と入院による徘徊の危険防止の必要性があり、入院を要する期間の見込みは不詳であり、入院に要する費用は約一二万円で、うち原告毅が負担する額は約四万円である旨を原告毅の後見人に対して回答していること、原告毅の負担分は月額三万五四〇〇円であること等の事実が認められ、厚生省大臣官房統計情報部編平成六年簡易生命表によると五八歳男性の平均余命は二二年(年未満は切り捨て。)であることは当裁判所に顕署な事実であり、これらの事実によれば、原告毅は、症状固定後二二年間にわたり、治療の必要があり、そのために月額三万五四〇〇円を必要とする蓋然性を認めることができる。

(算式)35,400×12×14.104

5  将来の入院雑費 五一四万七九六〇円

前記二の4の事実及び証拠(原告毅法定代理人後見人松下勝代)によれば、原告毅は、平成六年二月一九日の症状固定後も二二年間にわたり、治療の必要が認められ、その痴呆症状(記銘力低下、見当識障害)は今後も改善の見込みはなく、これに対する向精神薬、抗てんかん剤の投与と入院による徘徊の危険防止の必要性があること等の事実が認められ、右の事実によれば、原告毅は、症状固定後も二二年間にわたり、入院の必要が認められ、右期間中一日当たり一〇〇〇円の雑費を必要とする蓋然性を認めることができる。

(算式)1,000×365×14.104

6  将来の付添看護費 七〇五万二〇〇〇円

前記二の4、同5の事実及び証拠(原告毅法定代理人後見人松下勝代)によれば、原告毅は、症状固定後二二年間にわたり、入院治療の必要が認められ、原告毅の面会に、原告秀子ら近親者が訪れた回数は、平成六年は二月二〇日以降に一一五日、平成七年は九八日であったこと等の事実が認められ、右の事実によれば、原告毅は症状固定後二二年間にわたり、介護の必要が認められ、付添介護費としては、右期間につき年額五〇万円をもって相当と解され、原告毅の主張はその限度で理由がある。

(算式)500,000×14.104

7  慰謝料 二七五〇万〇〇〇〇円

本件事故の態様、過失割合、原告毅の受傷部位及び程度、入院の経過、後遺障害の部位及び程度、その他の諸事情を考慮すれば、原告毅の慰謝料は、入院分三五〇万円、後遺障害分二四〇〇万円が相当である。

三  原告秀子の損害 三〇〇万〇〇〇〇円

原告秀子は原告毅の妻であって、前記認定の原告毅の後遺障害の内容及び程度等に鑑みれば、原告秀子は、原告毅がその生命を害された場合に比べても劣らないほどの精神的苦痛を受けたことを認めることができ、その慰謝料は三〇〇万円が相当である。

四  過失相殺

1  前記三の原告毅の本件事故による損害額合計五八五〇万一一三五円のうち、治療費については、国民健康保険からの給付分七六〇万二五六〇円が含まれているところ、保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する(国民健康保険法六四条一項)から、右の給付分については、これを控除し、その残額から前記一の過失割合により過失相殺による減額を行うと残額は四〇七一万八八六〇円となる。

2  原告毅の過失は、原告秀子の慰謝料額を算定するに際しても、これを斟酌すべきであると解されるから、その減額を行うと残額は二四〇万円となる。

五  損害てん補

原告毅が、被告から、本件事故に関して三六〇〇万一五七二円の支払いを受けたことは当事者間に争いがないから、前記三の過失相殺による減額後の残額から右の損害てん補額を控除すると残額は四七一万七二八八円となる。

六  弁護士費用

本件事案の性質、認容額その他諸般の事情を考慮すると、弁護士費用は、原告毅につき四七万円、原告秀子につき二四万円が相当である。

七  以上のとおりであって、原告毅の請求は五一八万七二八八円及び内金四七一万七二八八円に対する平成三年一一月一八日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、原告秀子の請求は二六四万円及び内金二四〇万円に対する平成三年一一月一八日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度でいずれも理由があるから、これを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 齋藤清文)

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